「ひとつにあらず」

自撰50句

正解は一つに非ず春の空

春めくや八宝菜に白ワイン

木の芽時たこの形のソーセージ

矢印は皆天を指し春来る

隣にはレース模様の朝寝妻

バリカンに削り取られて春頭

シャッターで私を春に閉じ込めて

店先に春風廻す散髪屋

四月馬鹿白系露西亜人の恋

亀鳴くや望遠レンズ磨く夜

このまんま死んじゃえそうな春の風邪

初夏というアルカリ性の白い指

さて五月大言壮語許されよ

子を叱り終えてバナナに独り言

子々孫々六月六日雨ざあざあ

歯ブラシにはみ出すくらい夏の朝

ねじ曲がり合う日盛りのすれ違い

殺人を企てている扇風機

頭から飛び込んで来る夏の雨

幸福になれない男冷索麺

神々の不在守宮の足の裏

音もなく今日秋扇となりにけり

草紅葉大分傷んで来た地球

燕去る子は折紙を覚え初め

七竃天動説を唱へをり

秋の暮笑うカーネルサンダース

花木槿会社休んで眺めてる

中空となりし瓢の一本気

芋嵐犬には犬のテリトリー

なぞなぞの答えは明日十三夜

それぞれに己が苗字の墓洗う

懐かしい人に会いたい薩摩いも

一日中一人ぼっちで落花生

日常の否定の果ての竹の春

走る人歩く人いて冬隣

初冬の街角の待針である

お互いに口とんがらせ河豚捌く

今日だけを道連れにして冬の虫

あと少し待つ身の中に育つ冬

不燃物片手に小春日和かな

枯芝に山高帽の影ふたつ

霜柱三・一四一五九

顎舐める電気剃刀十二月

赤鼻の街抜けてより冴ゆる夜

窓越しの雛菊揺らし議事続行

酢茎噛む選挙報道は続く

真鍮の振子が冬の夜を刻む

心には自由おでんにだしの素

寒卵一人哲学する心

去年今年忘れた歌詞はふふうんふん



更新日 99/11/16
作品の著作権は作者に存するものであり、無断転載等は禁じます。

目次に戻る 連絡先トップに戻る