全作品


番号 日付 作品 備考
1 94年05月21日 新緑が五感に迫り胸をはる   
294年05月21日薄暑午冷やしつけ麺胡麻のつゆ  
394年05月21日新緑の下あぶなげな一輪車  
494年06月04日遠い目は吾子の飼いたるみどり亀  
594年06月04日白銀町下れば初夏の神楽坂  
694年06月04日その後は酔って候夏の夜  
794年06月18日十薬は陰で静かで腫レ鎮メ  
894年06月18日青嵐少年剣士の袴揺れ  
994年06月18日燕の子昼食の後気に掛かり  
1094年07月02日梅雨空の澱みが被う河原に子  
1194年07月02日日盛りに家族のためなんかじゃない  
1294年07月02日持て余す梅雨晴の傘だけでなく  
1394年07月16日蜂の巣にされたボニーの夏帽子  
1494年07月16日一番乗り親代々の汗っかき  
1594年07月16日置き去りにされた縫いぐるみと端居  
1694年07月30日優しげな風を選んで風鈴は  
1794年07月30日扇風機雑魚寝の子らをかき回し  
1894年07月30日扇子ぱたぱたと与太飛ぶ禿頭  
1994年08月20日晩夏光インテリゲンチアの長話  
2094年08月20日桐一葉原因不明の焼死体  
2194年08月20日星月夜物置小屋の異星人  
2294年09月03日天高し宝くじでも買(コウ)てみよ  
2394年09月03日皆の耳すこうしのびる月明かり  
2494年09月03日太き腿(モモ)露にす残暑に特に  
2594年09月17日相乗りで花野を渡る茶色髪  
2694年09月17日クルクルとネズミ夜長を回しおり  
2794年09月17日秋出水絵本一束二百円  
2894年10月01日今の今木の実が落ちて地を叩き  
2994年10月01日夕食は各人各様秋刀魚喰う  
3094年10月01日サクリサクサクッと食べてしまう梨  
3194年10月15日散れどなお賛美を誘う薄紅葉  
3294年10月15日鳴りてすぐ添水鳴らんと身構えり  
3394年10月15日秋の声もののすきまを埋めつくし  
3494年10月29日よしなしと思えば秋の深まりぬ  
3594年10月29日背を向けて妻冬支度旅支度  
3694年10月29日秋の野の広い分だけ走る子ら  
3794年11月12日君の黒髪の手触り神無月  
3894年11月12日風呂吹きをよばれて帰る下り坂  
3994年11月12日歯を見せて笑う末っ子七五三  
4094年11月26日雪白く金子数える気にもなり  
4194年11月26日己が身を水面に覗く枯柳  
4294年11月26日鍋囲む猛者と呼ばれし男たち  
4394年12月10日水鳥の時間を緩め浮かびをり  
4494年12月10日暖簾はね河豚提灯に迎えられ  
4594年12月10日鍵かって顔を見合わす冬の夜  
4694年12月24日白々と今朝雪白くただ白く  
4794年12月24日君の名を呼ぶ夢覚めてからの冬  
4894年12月24日音も凍て水面岩肌何もかも  
4995年01月07日三の目で振り出しに戻るお元日  
5095年01月07日追いかけて来る子逃げる子春衣装  
5195年01月07日大晦日黒いカバンをぶら下げて  
5295年01月21日寒風に干され踊るやズボン下  
5395年01月21日暫くは口もきかずに暖を取る  
5495年01月21日枯れ枝のはらわれ一度だけ弾む  
5595年02月04日寒鴉躪り躪りと間合い詰め  
5695年02月04日寒燈に客の指先見つめる目  
5795年02月04日輪ゴム止め名刺の束が残り冬  
5895年02月18日浮氷酒には少し早い午後  
5995年02月18日春天に反り身になりしヘアヌード  
6095年02月18日春きざしやまひとつごと蘇る  
6195年03月04日豆雛を持って嫁ぎし京女  
6295年03月04日蜆汁レシピノートの1番目  
6395年03月04日ざざと来る時代遅れの馬車に東風  
6495年10月14日午後三時空の深きを鳥渡る  
6595年10月14日じいさんの棺にしこたま菊詰める  
6695年10月14日高層のビルを鏡に秋の雲  
6795年10月28日相鎚をとどこうらせる鰯雲  
6895年10月28日まな板に向かって林檎の皮は伸び  
6995年10月28日果敢なさをまた教えんと落葉す  
7095年11月11日家中の音も杓らる風炉名残  
7195年11月11日烏瓜朴念仁は長寿なり  
7295年11月11日秋の雲焼いて食べよか煮て喰おか  
7395年11月25日平熱に戻りし後の風邪心地  
7495年11月25日穿き付けど似合わぬが良しズボン下  
7595年11月25日薪鳴るを見詰めるだけのペチカの夜  
7695年12月09日ここはまだ溶けてないよと白い息  
7795年12月09日無口なり君の見つめる鴨もまた  
7895年12月09日中野駅下車徒歩三分雪催  
7995年12月23日主去り瓦礫の形に積もる雪  
8095年12月23日焼鳥を奇数に頼む間柄  
8195年12月23日雑炊の汁まですする同期会  
8296年01月06日雑煮餅とろけてとろり留守居の身  
8396年01月06日大虎も緑茶所望す三日かな  
8496年01月06日お年玉お節料理のお重越し  
8596年01月20日門松をちと拝借し家族撮る  
8696年01月20日手を合わす人の数だけある初日  
8796年01月20日初茜かすめ地球が廻り出す  
8896年02月03日敷蒲団卓袱台テレビ黒電話  
8996年02月03日水餅にされた摘出臓器見る  
9096年02月03日冴ゆる夜石の語るに任せ置く  
9196年02月17日棒付きの飴と一緒に春舐める  
9296年02月17日春めいて噂話の速くなり  
9396年02月17日まげものをつけっぱなしで蓬餅  
9496年03月02日頭数合わずリカちゃん雛飾り  
9596年03月02日浦波の純情掬う白魚船  
9696年03月02日エリ挿しに捕えられたる山の嶺  
9796年03月16日春の空引き立て役の雲二つ  
9896年03月16日B棟の前には花壇ヒヤシンス  
9996年03月16日緑立つ引っ越し先の広い窓  
10096年03月30日麗らかやパイプに煙草詰める指  
10196年03月30日鳥帰る鳥の性とは思わずに  
10296年03月30日鈴の声膝にまどろむ猫涅槃  
10396年04月13日春爛漫飲酒喫煙歌唱力  
10496年04月13日柳葉にモザイクされし二人連れ  
10596年04月13日水割りは言わずもがなのバーに梅  
10696年04月27日ふらここの影伸び縮み帰ろかな  
10796年04月27日縁先を借りて手弁当里の余花  
10896年04月27日夏の朝駅まで急ぎ顔無くし  
10996年05月11日胡瓜揉み彼氏イナイ歴2年ちょい  
11096年05月11日電信棒空にすっくと夏兆す  
11196年05月11日氷水男らしさを噛んで呑む  
11296年05月25日戸を透かし君が見つめた草苺  
11396年05月25日読経の途切れ卯の花腐し止み  
11496年05月25日麦の秋手拭いは腰陽は西に  
11596年06月08日日盛れど自分なりしか生きられん  
11696年06月08日異議却下萬民総意夏来る  
11796年06月08日黄色剥き白き頬張るバナナ顔  
11896年06月22日留守番をかってでたのか紫陽花は  
11996年06月22日夏至の夜の死荷重負担限界値  
12096年06月22日濁り鮒さもヤンママな身のこなし  
12196年07月06日まっすぐにセンターラインのびて夏  
12296年07月06日炎昼に黒ネクタイが登る坂  
12396年07月06日短き夜ものほしざおは眠れない  
12496年07月20日道をしえ腎臓に石帰り道  
12596年07月20日指先を皺々にして「まだ泳ぐ」  
12696年07月20日金魚ってよくよく見ると醤油顔  
12796年08月03日君も亦Noと言うのか扇風機  
12896年08月03日家庭用花火セットとバラ少し  
12996年08月03日水遊び日課となりて忙しき  
13096年08月17日睡蓮の姿最後に園を出る  
13196年08月17日夏痩せの歯ブラシ並ぶ洗面所  
13296年08月17日延命を願うて啜る心太  
13396年08月31日秋めくや指紋に残る天麩羅粉  
13496年08月31日整列すペットボトルに秋の風  
13596年08月31日元町は坂道ばかり秋涼し  
13696年09月14日燈火親しソリティア好きの父でした  
13796年09月14日赤のまま気付かぬままに立ち話  
13896年09月14日子供らの寝息に和む闇夜長  
13996年09月28日補助輪を外してほしい雁渡し  
14096年09月28日秋の空時間も休み休み行き  
14196年09月28日天高し二日酔いにて御座候  
14296年10月12日燕去る子は折紙を覚え初め  
14396年10月12日ぐい飲みを逆手に構え濁り酒  
14496年10月12日冬支度柳行李の凹みおり  
14596年10月26日七竃天動説を唱へをり  
14696年10月26日からすみは手塩に乾き宴果つ  
14796年10月26日なぞなぞの答えは明日十三夜  
14896年11月09日秋の暮笑うカーネルサンダース  
14996年11月09日駅までに鶺鴒の声二度三度  
15096年11月09日柿一箱手紙一枚今日届く  
15196年11月23日雑炊でいいさ明日の朝飯は  
15296年11月23日うつむいたまま地球から葱を抜く  
15396年11月23日木枯らしの道案内は喪服着て  
15496年12月07日寒燈を消す瞬間の妻の耳  
15596年12月07日お互いに口とんがらせ河豚捌く  
15696年12月07日少年の日の指をして竹瓮解く  
15796年12月21日赤鼻の街抜けてより冴ゆる夜  
15896年12月21日一葉の家族写真が有り冬夜  
15996年12月21日遠吠えに急かされ啜る夜鷹蕎麦  
16097年01月04日去年今年忘れた歌詞はふふうんふん  
16197年01月04日二の腕の白さ競ふて初電車  
16297年01月04日今日だけを道連れにして冬の虫  
16397年01月18日ストーブにあたる手四つ尻一つ  
16497年01月18日裏山は雪天こ盛り湯気のぼる  
16597年01月18日あと少し待つ身の中に育つ冬  
16697年02月01日枯いばら許可ナク駐車スベカラズ  
16797年02月01日竜の玉生まれ育った家遠く  
16897年02月01日その直下少女はひとり寒燈  
16997年02月15日吸って吹き亦吹くハーモニカの春  
17097年02月15日赤々と尾燈引き連れ朧月  
17197年02月15日春浅し浮気男にキスマーク  
17297年03月01日薄墨の烽火を空へ磯かまど  
17397年03月01日正解は一つに非ず春の空  
17497年03月01日氷嚢は出さず仕舞に春の風邪  
17597年03月15日隣にはレース模様の朝寝妻  
17697年03月15日バリカンに削り取られて春頭  
17797年03月15日店先に春風廻す散髪屋  
17897年03月29日沖合いに流氷迫る通過駅  
17997年03月29日太陽も素顔になって青き踏む  
18097年03月29日青饅の小鉢並べて敵待つ  
18197年04月12日シャッターで私を春に閉じ込めて  
18297年04月12日永き日の校歌替え歌リフレイン  
18397年04月12日春着着て退社時刻が待ち切れず  
18497年04月26日槌音の止まぬ寺内孕鹿  
18597年04月26日サロンパス剥ぎ春眠と決別す  
18697年04月26日若芝にチクチクされている二人  
18797年05月10日電線もてんでに遊ぶ夏の空  
18897年05月10日さて五月大言壮語許されよ  
18997年05月10日子を叱り終えてバナナに独り言  
19097年05月24日草笛にのってレノンの反戦歌  
19197年05月24日神々の不在守宮の足の裏  
19297年05月24日亡き霊を数多に宿し花卯木  
19397年06月07日姿見の留具緩みて余花の景  
19497年06月07日ねじ曲がり合う日盛りのすれ違い  
19597年06月07日子々孫々六月六日雨ざあざあ  
19697年06月21日何事も無かったようにアマリリス  
19797年06月21日夜振火に父子と見えてへの字口  
19897年06月21日跡追いの娘止めて梅雨の星  
19997年07月05日幸福になれない男冷索麺  
20097年07月05日冷房をかけ便箋を開けども  
20197年07月05日夾竹桃疎んじられる親父なり  
20297年07月19日ひも付けて夏振り回せ振り回せ  
20397年07月19日夜濯ぎとなるタンシンのバスルーム  
20497年07月19日ヒフミヨと数え円座を並べ終え  
20597年08月02日月火水暑中御見舞木金土  
20697年08月02日ちゃん付けで君の名を呼ぶ夏の星  
20797年08月02日打ち水を鼻から浴びる象使い  
20897年08月16日花木槿会社休んで眺めてる  
20997年08月16日星月夜地球に帰る車窓より  
21097年08月16日音もなく今日秋扇となりにけり  
21197年08月30日替えズボン寝押ししているおらが秋  
21297年08月30日ねおん字の三つ四つ欠けていて無月  
21397年08月30日秋めくや麻酔の残る歯科帰り  
21497年09月13日中空となりし瓢の一本気  
21597年09月13日煩悩は断てず門茶は熱からず  
21697年09月13日順々に花白粉はあやされて  
21797年09月27日土地勘の無き三叉路や秋の暮  
21897年09月27日直線が直線に飛ぶ蜻蛉飛ぶ  
21997年09月27日夜食皿流しの隅に下げてあり  
22097年10月25日虫の音に誘われるまま口喧嘩  
22197年10月25日満たされぬ思いを包む秋袷  
22297年10月25日芋嵐犬には犬のテリトリー  
22397年11月08日不燃物片手に小春日和かな  
22497年11月08日草紅葉大分傷んで来た地球  
22597年11月08日綿虫や良心はこう呵責する  
22697年11月22日冬めくや杓子定規に床掃除  
22797年11月22日冬木立沿いに歩いて省みず  
22897年11月22日虎落笛引きつけられてゆく心  
22997年12月06日冬ぬくしエレベーターの顔馴染み  
23097年12月06日枯芝に山高帽の影ふたつ  
23197年12月06日寒凪に嘴何故か整列し  
23297年12月20日霜柱三・一四一五九  
23397年12月20日冬眠は出来ないもんか四畳半  
23497年12月20日顎舐める電気剃刀十二月  
23598年01月03日寒紅が交通違反取締まる  
23698年01月03日大晦日子供連出す使命帯び  
23798年01月03日冬籠り母と成る日を数えつつ  
23898年01月17日口開けて空と眼鏡と舌に雪  
23998年01月17日バス停に人影も無し寒の月  
24098年01月17日あんじょうにたのんまっさあ関東煮  
24198年01月31日窓越しの雛菊揺らし議事続行  
24298年01月31日春隣男は黙って死んでゆく  
24398年01月31日君も今遠き雪崩を感知する  
24498年02月14日塀に赤スプレーで春殴り書き  
24598年02月14日春浅し茶色い犬が続け様  
24698年02月14日春めくや八宝菜に白ワイン  
24798年02月28日雪しろや心に残る人のあり  
24898年02月28日地図広げ世界征服春炬燵  
24998年02月28日行きは気がつかなかったよ犬ふぐり  
25098年03月14日五時起床国旗掲揚沈丁花  
25198年03月14日うきうききいそいそもこり芽立時  
25298年03月14日干鰈並ぶ武骨な民の国  
25398年03月28日四月馬鹿白系露西亜人の恋  
25498年03月28日春の夢また引き出して利息無し  
25598年03月28日永き日の地球に杭を打つ響き  
25698年04月25日亀鳴くや望遠レンズ磨く夜  
25798年04月25日遠足はおやつ敷物お弁当  
25898年04月25日暖かやラブジェネレーション飴ころころ  
25998年05月09日このまんま死んじゃえそうな春の風邪  
26098年05月09日文鎮の窪みを残し春の果て  
26198年05月09日春惜しむプラスティックに囲まれて  
26298年05月23日万緑の中や大仏大行進  
26398年05月23日糸取や皆東京へ行ったきり  
26498年05月23日精霊をそれぞれ宿し新樹の夜  
26598年06月06日初夏というアルカリ性の白い指  
26698年06月06日眠る間に鼻毛伸び梅雨始まりぬ  
26798年06月06日冷房が会話の隙間埋めている  
26898年06月20日残されし夢の数程銭荷かな  
26998年06月20日蜻蛉生る生徒諸君の起床前  
27098年06月20日頭から飛び込んで来る夏の雨  
27198年07月04日もぎさすりすすがずがぶりくふトマト  
27298年07月04日日曜の黴に泡状塩素系  
27398年07月04日殺人を企てている扇風機  
27498年07月18日膝と肘お久しぶりね半夏生  
27598年07月18日焼酎に飲まれ板間に大鼾  
27698年07月18日柿青しステッキさんに挙手の礼  
27798年08月01日夏の雨夏の日盛り郵便ポスト  
27898年08月01日歯ブラシにはみ出すくらい夏の朝  
27998年08月01日香り立つ旗印也土用丑  
28098年08月15日それぞれに己が苗字の墓洗う  
28198年08月15日流れ星世界恐慌世紀末  
28298年08月15日八月に扉を閉ざす幼稚園  
28398年08月29日秋風に吹かれるものは沈黙す  
28498年08月29日檸檬切る間修復する夫婦仲  
28598年08月29日懐かしい人に会いたい薩摩いも  
28698年09月12日神々に取り囲まれていて葉月  
28798年09月12日一日を一人で過ごし落花生  
28898年09月12日夜学生教科書ノート不精髭  
28998年09月26日曲線に囲まれたまま九月尽  
29098年09月26日群れ蜻蛉方向性の無限大  
29198年09月26日秋高しニョキニョキ延びる髪と爪  
29298年10月10日親不知抜き月光の道を行く  
29398年10月10日鹿垣に沿って無口な人の後  
29498年10月10日日常の否定の果ての竹の春  
29598年10月24日走る人歩く人いて冬隣  
29698年10月24日きりぎりす生きる力を与えてよ  
29798年10月24日稲光今夜不幸な人が居る  
29898年11月07日初冬の街角の待針である  
29998年11月07日木の葉髪秒針の音六畳間  
30098年11月07日ほど祭めったに見せぬ笑い顔  
30198年11月21日冬ざれやさきおとついの五目飯  
30298年11月21日酢茎噛む選挙報道は続く  
30398年11月21日阿るは恥ずべしと葱口中へ  
30498年12月05日真鍮の振子が冬の夜を刻む  
30598年12月05日笹鳴や人に生まれて半世紀  
30698年12月05日冬帽子包みの中も冬帽子  
30798年12月19日冬の空生きる不安の無くなる日  
30898年12月19日冬茜これを褒美と致しやしょ  
30998年12月19日心には自由おでんにだしの素  
31099年01月02日年々の耳綴じ合わす雑煮かな  
31199年01月02日不作為な殺意背後に葱刻む  
31299年01月02日平仮名で書いてやりたや冬苺  
31399年01月16日君思う寒夜水道管破裂  
31499年01月16日冬色の出窓よりホモサピエンス  
31599年01月16日寒卵一人哲学する心  
31699年01月30日早起きのすっぴん出社寒鴉  
31799年01月30日餅花が聞いているとはつゆ知らず  
31899年01月30日十代と睡眠薬の冬籠  
31999年02月13日メロドラマチックな暮らし針供養  
32099年02月13日矢印は皆天を指し春来る  
32199年02月13日寒明けや右手で掛ける発動機  
32299年02月27日日脚延ぶ地軸傾く電車来る  
32399年02月27日牛の背に何を載せよう梅若忌  
32499年02月27日思惑もなく京菜へと箸は延び  
32599年03月13日うららかや川原のリサイクルまつり  
32699年03月13日夕東風の中遮断機が下りる  
32799年03月13日春の泥あヽあの人は今いずこ  
32899年03月27日鵜馴らしの親父トリの目トリの口  
32999年03月27日決めかねている曇り空飛ぶ燕  
33099年03月27日工場に咲き山躑躅多忙なり  
33199年04月10日毛根にパワー授かる花盛り  
33299年04月10日達人の絵筆散らばり春暮るる  
33399年04月10日木の芽時たこの形のソーセージ  
33499年06月05日開くもの全てを開き夏来る  
33599年06月05日歯切れ良い気象解説梅雨に入る  
33699年06月05日夏の宵本気で作るプラモデル  
33799年06月19日単衣着て拗ねてみせよか袖にしょか  
33899年06月19日冷奴着席順に開始せよ  
33999年06月19日幾何学の限界として竹落葉  
34099年07月03日半夏生去り行く人の皆若く  
34199年07月03日ビー玉に逆さに写る油照  
34299年07月03日日よ盛れ私の顔の皺増やせ  
34399年07月17日兜虫だけ起きているリアシート  
34499年07月17日母の母その母の母月見草  
34599年07月17日一つ葉と象形文字の踊る壁  
34699年07月31日脳みそは少ないが良し鵜飼の鵜  
34799年07月31日角張った顔と時計と七月と  
34899年07月31日蝸牛もひとつ逆さ蝸牛  
34999年08月14日新涼や原稿用紙ひと綴り  
35099年08月14日みせばやの咲いてベランダ物語  
35199年08月14日東京に歯車多し秋時雨  
35299年08月28日秋暑しガンマGPT高し  
35399年08月28日秋の潮佇む影の無責任  
35499年08月28日耳すます案山子嘆息する案山子  
35599年09月11日山葡萄寄木細工の皿の上  
35699年09月11日燕去るいつもの道を急ぎ足  
35799年09月11日居待月私とあなたパパとママ  
35899年09月25日赤ペンキ塗る人墓を洗う人  
35999年09月25日君が切る檸檬近づく世紀末  
36099年09月25日鳴き止んで哲学となるきりぎりす  
36199年10月09日其々に向く柞葉や尋ね人  
36299年10月09日朝寒の厨より缶切りの音  
36399年10月09日秋桜かくれんぼこの指止まれ  
36499年10月23日十月が壁から垂れ下がっている  
36599年10月23日読みかけのコスモポリタン秋惜む  
36699年10月23日虫売りは小柄で地黒野球帽  
36799年11月06日七五三二八十六二二んが四  
36899年11月06日芭蕉忌やポケット瓶の居る車窓  
36999年11月06日食前の顆粒胃薬冬の朝  
37099年11月20日フカヒレの野暮は言うなとスープ飲む  
37199年11月20日冬薔薇晩餐となるハンバーグ  
37299年11月20日ペチカ燃ゆ小人は休み無く踊る  
37399年12月4日一族の絆は薄れ山河涸る  
37499年12月4日医者に成ろうと決めたのも冬の夜  
37599年12月4日湯ざめした豆腐に熱い唇を  
37699年12月18日卓袱台も四角くなって冬至粥  
37799年12月18日笛の音も止み極月の夜ひとつ  
37899年12月18日着膨れて人に聞けずに迷い道  
37900年1月1日丸三つ描いておしまい鏡餅  
38000年1月1日若水を通し畏き浄水機  
38100年1月1日目前で落葉雀と成り飛翔  
38200年1月15日冬ざれや荷造りをする人が居る  
38300年1月15日木枯らしが脳味噌を突き抜けて行く  
38400年1月15日寒波来る遮断機のある通学路  
38500年1月29日通学路霜柱はや総崩れ  
38600年1月29日寒詣海を渡って来た人と  
38700年1月29日喧嘩してぷいと飛び出す寒鴉  
38800年2月12日冬という旋律を奏でるピアノ  
38900年2月12日節分の夜更けに青鬼とダンス  
39000年2月12日枯れ果てて剥離していく風の街  
39100年3月11日七人の敵に囲まれ義仲忌  
39200年3月11日紅梅の無人の街の昼下がり  
39300年3月11日早春の校門脇で兄を待つ  
39400年3月25日木の芽立ち大の男が滑り台  
39500年3月25日柳鮠真水の中の無重力  
39600年3月25日膝小僧丸く並べて春うらら  
39700年4月8日晩春や丸まっていくたなごころ  
39800年4月8日花の下人間であるだけで良い  
39900年4月8日一日の花を見終えて眠る犬  
40000年4月22日母の春旅の予定を知らされる  
40100年4月22日どうたんに散りばめられている時間  
40200年4月22日春の蝿遠くに子らの笑い声  
40300年5月6日滝を見に行ってきたのとEメール  
40400年5月6日夏めくや食券自動販売機  
40500年5月6日朝寝した体追い越し夏来る  
40600年5月20日金雀枝を目指して来る雨の粒  
40700年5月20日ねずみ色ネズミ色へと更衣  
40800年5月20日夕凪のドアに引越し蕎麦の箱  
40900年6月3日椎落葉信号待ちの帽子は黄  
41000年6月3日黒南風とコンクリートとアスファルト  
41100年6月3日六月の皿洗う妻並ぶ皿  
41200年8月5日缶ビール小型テレビで見る慕情  
41300年8月5日焼酎や天下国家の一大事  
41400年8月5日待ちぼうけ年齢不詳夏帽子  
41500年8月19日朝顔のような一日ような人  
41600年8月19日梶の葉と立方体のオルゴール  
41700年8月19日秋黴雨坊主頭が野球盤  
41800年9月2日坂道の途中の店の新豆腐  
41900年9月2日秋高しループ続けるプログラム  
42000年9月2日八朔の茶碗は丸く問い返す  
42100年9月16日宵闇のお隣りさんの痴話喧嘩  
42200年9月16日今生の糸瓜の括れ辺りかな  
42300年9月16日長き夜腹に溜まらぬ絵空事  
42400年9月30日秋の暮四角い電車待つホーム  
42500年9月30日茶色髪撫でる手櫛の思う秋  
42600年9月30日各々のポーズ崩さぬ唐辛子  
42700年10月14日鶉飼うベジタリアンのデザイナー  
42800年10月14日木賊刈る我の背中を渡る風  
42900年10月14日内定の通知待つ鈴虫の声  
43000年10月28日秋深し左足だけ並ぶ棚  
43100年10月28日秋雨にワインを入れた紙袋  
43200年10月28日沈黙のグラス胡桃の深き皺  
43300年11月11日江戸っ子の粋か訛りか熊手売り  
43400年11月11日社員証鷹ニ成リタシ羽ハナシ  
43500年11月11日初時雨体と顔で受け止めて  
43600年11月25日避難場所赤く囲まれ神無月  
43700年11月25日皮羽織階段坂のすれ違い  
43800年11月25日母の愚痴テレビCM蕎麦湯飲む  
43900年12月9日来し方もあり行く末もあり師走  
44000年12月9日暖冬や杓文字に残る御飯粒  
44100年12月9日冬ざるる鉄路地下鉄操車場  
44200年12月23日冬銀河記憶をたどる薬指  
44300年12月23日マフラーを巻き沈黙の二人連れ  
44400年12月23日河沿いにベンチは並び年惜しむ  
44501年1月6日初空に解き放たれし摩天楼  
44601年1月6日年越や缶珈琲を握り締め  
44701年1月6日水仙の花妻の振る浄め塩  
44801年2月17日ハレルヤの唄春の雨鉄格子  
44901年2月17日春風に吹かれ大きくなる部分  
45001年2月17日春浅し鼻の頭のちょっと先  
45101年3月3日啓蟄やハートマークで来る手紙  
45201年3月3日音もなく田螺が群れている辺り  
45301年3月3日陽炎に燃える横浜中華街  
45401年3月17日皮下脂肪微妙に増える日永かな  
45501年3月17日約束をふたつ取り消し春日傘  
45601年3月17日春泥に公的資格申請書  
45701年3月31日鳥帰る寮生活という暮らし  
45801年3月31日煙突が見守る町の万愚節  
45901年3月31日無口な子無口なままに卒業す  
46001年4月14日花冷えや二列に並ぶ蛍光灯  
46101年4月14日春燈下銘々が盛るライスカレー  
46201年4月14日悪夢より覚め恋猫の声ばかり  
46301年4月28日石楠花が近付いて来る雨上がり  
46401年4月28日脳味噌も蕩けて春の昼下がり  
46501年4月28日芸能人二人御陀仏四月尽  
46601年5月19日描かずとも語られずとも夏の空  
46701年5月19日夏めくや行方不明の老眼鏡  
46801年5月19日ウインドウ越しマネキンの薄暑かな  
46901年6月2日まくなぎや晩のおかずはなんにしよ  
47001年6月2日葭簀越し頭を下げて暇乞い  
47101年6月2日青嵐とうとう朱肉見付からず  
47201年6月30日はんなりとしんなりと鱧食べなはれ  
47301年6月30日夕立に買物袋ひた走る  
47401年6月30日薫風や寝転んで見る妻の帯  
47501年7月14日夏の宵ギター抱えて見るテレビ  
47601年7月14日梅雨明けを今朝女子アナに告げられて  
47701年7月14日君の名を昔のままに籠枕  
47801年7月28日君と見た虹は都に置いたまま  
47901年7月28日暑き日に何故君は爪を切る  
48001年7月28日惜別の宴の果てのジャスミン茶  
48101年8月11日秋めきて勝手に回るボールペン  
48201年8月11日秋暑し病み上がりには喰えぬ菓子  
48301年8月11日掌に新涼を乗せ仕上げとす  
48401年9月8日ベランダに煙草の灯る長い夜  
48501年9月8日眠る窓目掛け台風北上す  
48601年9月8日喧嘩する隣人秋の雨の夜  
48701年9月22日御布団に溶けて染み込む良夜かな  
48801年9月22日一房の葡萄を描き上げ暮れる  
48901年9月22日やや寒や二百十円路線バス  
49001年10月6日意に沿わぬ相槌打ちて秋刀魚喰う  
49101年10月6日十六夜や分母の上に乗る分子  
49201年10月6日秋雨やもたれ合う傘立ての傘  
49301年10月20日敗荷や昨日見た夢今日の夢  
49401年10月20日鹿の声硬い枕に眠れぬ夜  
49501年10月20日天高し失笑誘うおやじギャグ  
49601年11月17日綿虫の午後のベンチの所在無さ  
49701年11月17日神の留守お昼のラジオ歌謡曲  
49801年11月17日また同じ話始まる小六月  
49901年12月1日枯葉掻く風の通信ログ削除  
50001年12月1日熱燗と決めて分け入る縄暖簾  
50101年12月1日己が溜息の温もり知るマスク  
50201年12月15日薮巻や駅までの道黙々と  
50301年12月15日全員でこそげて啜るずわい蟹  
50401年12月15日冬曙暖簾を守る若夫婦  
50501年12月29日ポックリと逝きたいものね福寿草  
50601年12月29日電飾の冴え群集の牛歩かな  
50701年12月29日旅立ちの荷物ゴロゴロ雪催  
50802年1月12日寒木瓜の庭に微かにバイオリン  
50902年1月12日投扇興古き名刺を束ねつつ  
51002年1月12日片言の電話を受ける寒夜かな  
51102年1月26日枯木立空と時間を絡め取り  
51202年1月26日ままならぬ世情牛鍋味噌醤油  
51302年1月26日粉雪や子犬にもある腋の下  
51402年2月9日冴返るコノ先マガル小野眼科  
51502年2月9日春菊をへばり付けたる鍋の蓋  
51602年2月9日春浅し席に伝言メモ三枚  
51702年2月23日盆梅が聞いているとはつゆ知らず  
51802年2月23日教会に十字架ひとつ春の暮  
51902年2月23日春めくや黄色い帽子とてちてた  
52002年3月9日鳥帰る行方不明の皿ひとつ  
52102年3月9日春昼の噂の店の列に着く  
52202年3月9日店先に種物並び無人也  
52302年3月23日果てしなき民の欲望汐干狩  
52402年3月23日蜆汁飲むたび古びゆく御椀  
52502年3月23日満開の桜肥大化する歯茎  
52602年4月6日連翹や町内毎の避難場所  
52702年4月6日花曇また高くなる本の山  
52802年4月6日教頭の筆か入学式次第  
52902年4月20日石畳石の外壁春の風  
53002年4月20日つつじ咲く道真直ぐにハイヒール  
53102年4月20日暮れ泥む春のポストに口ふたつ  
53202年5月4日卯波来て一糸乱れぬディスプレー  
53302年5月4日海亀が一匹棲んでいる心  
53402年5月4日観覧の疎ら薄暑のロードショー  
53502年5月18日資本主義国家存続鮎解禁  
53602年5月18日夏来るフロントグラスいっぱいに  
53702年5月18日ひとしずくごと窓に線梅雨きざす  
53802年6月1日銭亀の買われる時を待つ並び  
53902年6月1日ピッポッパ花弁が揺れるカキツバタ  
54002年6月1日団体の心丈夫や瀑布聴く  
54102年6月15日六月の現金自動支払い機  
54202年6月15日然りとても雄弁は銀梅雨晴間  
54302年6月15日金髪で下駄にTシャツ生ビール  
54402年6月29日アイリスの茎青春のリグレット  
54502年6月29日溝さらへ軍手手拭ひサロンパス  
54602年6月29日月凉し片手で曲げる銀の匙  
54702年7月13日梅氷焼酎昔話など  
54802年7月13日信号を待つ足の群れ海南風  
54902年7月13日大夕立拍手喝采トタン葺  
55002年7月27日川床や二の腕口説く脹脛  
55102年7月27日髪洗う護る国無き民として  
55202年7月27日甚平と浴衣オニサンコチラ哉  
55302年8月10日身支度を終えもうひとつ梨サクリ  
55402年8月10日秋立つや四角い手摺り頼る指  
55502年8月10日秋晴や境目のない新製品  
55602年8月24日肌寒や本日付の人も居て  
55702年8月24日溝蕎麦に歩調緩める白ズック  
55802年8月24日人形は皆左向き秋凉し  
55902年9月7日秋暁や低血圧は猫の常  
56002年9月7日秋霖や逆さに使う胡麻磨り機  
56102年9月7日秋桜双子並べた乳母車  
56202年9月21日背の順に並ぶ家族の良夜かな  
56302年9月21日鰍焼きつつお茶ボトル喇叭飲み  
56402年9月21日見送って秋とホームに残される  
56502年10月5日黄落に埋め尽くされる譜面台  
56602年10月5日十月と何か丸くて回る物  
56702年10月5日台風の夜の電車の窓の数  
56802年10月19日差戻し紛糾眼白鳴き止まず  
56902年10月19日帰りがけ新酒デパ地下にて試飲  
57002年10月19日金の鶴銀の鶴折る長き夜  
57102年11月2日均等に割箸割って栗の飯  
57202年11月2日朝寒や犬の器に犬の餌  
57302年11月2日ブレーキの軋む自転車暮の秋  
57402年11月16日短日や成す術も無い膝ふたつ  
57502年11月16日ハンチングマスクトレンチ銀杏散る  
57602年11月16日切干や危険なことはやめましょう  
57702年12月7日革靴の律儀な並び寒波来  
57802年12月7日すし詰めにされて皺々十二月  
57902年12月7日鴨一羽金網越しに僕一人  
58002年12月21日極月の婚姻届村役場  
58102年12月21日枯菊が砂利踏む音を聞いている  
58202年12月21日渇望の時代整列する海鼠  
58303年1月4日淑気満つ街路チョコパン齧りつつ  
58403年1月4日初東雲Tシャツの背にHARAJUKUと  
58503年1月4日年の夜や人数分を洗い終え  
58603年1月18日初旅や石段昇り坂降り  
58703年1月18日創作は進まず庭の梅早し  
58803年1月18日然し未だ眠り続ける年男  
58903年2月1日雪催い良いではないかと三軒目  
59003年2月1日寒月に吸い上げられて行く眼鏡  
59103年2月1日凍天下無言で向う本社ビル  
59203年2月15日立春の脚に溜まっていく時間  
59303年2月15日三尾ずつ並んでさより不満顔  
59403年2月15日猟名残平らな顔と平らな手  
59503年3月1日どこで春そんなに吸いこんで来たの  
59603年3月1日白い梅紅い梅見る君の頬  
59703年3月1日右左十本分の余寒かな  
59803年3月15日快調な胃袋ひとつ春炬燵  
59903年3月15日特大のダイバーウォッチ諸子釣る  
60003年3月15日表裏無い人集まって垣手入  
60103年3月29日笛の音指折る月日桃の花  
60203年3月29日菜種梅雨ピアノ三味線笛太鼓  
60303年3月29日暖かや車窓から牛ぽつりぽつ  
60403年4月12日風車回るカタチと飛ぶカタチ  
60503年4月12日蚕らに食われ小さくなる昭和  
60603年4月12日鍵下りた鉄格子越し藤の花  
60703年4月26日春の朝一科学者として起床  
60803年4月26日コンビーフ独りで食し暮遅し  
60903年4月26日春宵の番組全て繰り下がり  
61003年5月10日ひなげしの向こう改装中の店  
61103年5月10日夏霞始業前から呼び出され  
61203年5月10日初夏の楕円を買いに行く楕円  
61303年5月24日麦秋や駅から続く白い列  
61403年5月24日青蛙瞳の中の俺と空  
61503年5月24日青嵐銀輪を今潜り抜け  
61603年6月7日あの頃はあそこに市電著莪の花  
61703年6月7日ふりがなを振ってやりたい水馬  
61803年6月7日炎昼の空腹参道を走る  
61903年6月21日紫陽花を揺らして空へ向かう風  
62003年6月21日水無月に水面膨らますグラス  
62103年6月21日執り合えず萬事繰り延べられる梅雨  
62203年7月5日含羞草気苦労多き女親  
62303年7月5日水と火と木と月と星キャンプの夜  
62403年7月5日短夜やひとり電卓叩く妻  
62503年7月19日梅雨明けの文庫の頁捲る指  
62603年7月19日冷奴愚痴る心を抑えつつ  
62703年7月19日七月の選手定刻に集合  
62803年8月2日遠回りさせてごめんね花ユッカ  
62903年8月2日早朝の浜舟虫に迎えられ  
63003年8月2日散り散りの思いで辿る冷やし酒  
63103年8月16日立秋の御洒落眼鏡とスラックス  
63203年8月16日本棚に隙間残して秋めきぬ  
63303年8月16日秋刀魚喰う午後のラジオに勧められ  
63403年8月30日大毛蓼靴のでかさでする仕事  
63503年8月30日星飛ぶ夜アルファベットで書く手紙  
63603年8月30日秋涼し低騒音の揚重機  
63703年9月13日秋の暮旅行鞄が上る坂  
63803年9月13日秋深し通風孔の穴四角  
63903年9月13日焼き蕎麦の上紅生姜秋祭  
64003年9月27日赤錆びた車輪の直下穴惑  
64103年9月27日こだはりの男たうもろこしを焼く  
64203年9月27日雑念の絶えることなく九月尽  
64303年10月11日坂道を上って下りて秋うらら  
64403年10月11日下手人は見付からぬまま唐辛子  
64503年10月11日秋の水習い事でも始めましょ  
64603年10月25日そぞろ寒片方だけが忘れられ  
64703年10月25日柳散りスーツ姿を見送りぬ  
64803年10月25日行く秋や生き甲斐というコルセット  
64903年11月8日ラジオから体操響く今朝の冬  
65003年11月8日冬浅しふたりが交わす広東語  
65103年11月8日冬薔薇三者面談無事終了  
65203年11月22日初霜や京都は母の出生地  
65303年11月22日望郷というプロセスや石蕗の花  
65403年11月22日堅物と無口湯豆腐突付きつつ  
65503年12月6日寄せ鍋や後は楽しき事ばかり  
65603年12月6日山眠り平和な街の夢を見る  
65703年12月6日寒鴉都市に分散する野性  
65803年12月20日歯車の軋む音聞き年守る  
65903年12月20日夕飯は鰤と携帯メール来る  
66003年12月20日冬の夜の無声映画の道化役  
66104年1月3日去年今年積上げ片す漆椀  
66204年1月3日初春の白きベンチに腰下ろす  
66304年1月3日淑気満つ点滅続く信号機  
66404年1月17日日脚のぶおむすび三つ竹の皮  
66504年1月17日簡単な関係となり雪見酒  
66604年1月17日初電話ガイドブックで時差計り  
66704年1月31日暫くの日差し楽しむ寒椿  
66804年1月31日死に場所を定めてからの冬の空  
66904年1月31日冬薔薇東大聖書研究会  
67004年2月14日春宵に並ぶ奇天烈タクシー灯  
67104年2月14日飾られてなお沈黙の踏絵かな  
67204年2月14日梅咲いていたよとトーストを齧る  
67304年2月28日声掛けて擦れ違う人潜む春  
67404年2月28日永き日の遺失物取扱所  
67504年2月28日春色に替えて出陣地区予選  
67604年3月13日あちらでもこちら眺める茅花かな  
67704年3月13日野に遊ぶ地面の丸み踏みしめつ  
67804年3月13日手に入れた歓喜を残し春の夢  
67904年3月27日花冷えの牛乳箱に空の瓶  
68004年3月27日卒業歌左右に四つ非常口  
68104年3月27日どの局もまず開花宣言を告げ  
68204年4月10日猫産まれ貰い手全て決まりし夜  
68304年4月10日鳥曇膝を叩いて読む音符  
68404年4月10日連翹や委員選出難航す  
68504年5月1日ビミョウでしょビミョウねビミョウ春の果  
68604年5月1日春昼の道に矩形に並ぶ影  
68704年5月1日清和なる空に立喰いそばうどん  
68804年5月15日初鰹食らう息子の描く夢  
68904年5月15日蕗食べてお皿洗って眠る夜  
69004年5月15日人も樹も千切り絵となる薄暑かな  
69104年5月29日蝸牛セピアカラーの長き夢  
69204年5月29日歯科治療終え新緑を闊歩する  
69304年5月29日空腹を抱えて眺む額の花  
69404年6月12日六月の間を持て余す薬指  
69504年6月12日五月闇すとんと眠りつく二人  
69604年6月12日カップ越し君は夏手袋を脱ぐ  
69704年6月26日夾竹桃その内側で滾るもの  
69804年6月26日出来立ての空地青空揚羽蝶  
69904年6月26日夏の朝ごゆっくりねと竹箒  



更新日 99/11/15
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