Q書房 第25回1000字小説バトル 感想文

1 眠け眼 泥人形さん
 大学生二人の明るい登校風景。耳がヌルッとしているという指摘に対して、「ドッキリなんじゃないか」と中西君が思い当たる部分を描写してしまったために、その後の応対のナンセンスさが「ドッキリに対する」普通の対応になってしまって、「三ヶ月」という部分の狂気に毒気が無くなってしまったのが残念に思えました。ヌルヌルッとして「妊娠三ヶ月」くらい強烈な方が楽しめる気がしました。

2 聖人と教祖 のぼりん@SSEAさん
 とても難解なストーリーが展開するかと思ったら、駄洒落で押し切られてしまいました。てんぷくトリオさん主演で映画化していただきたいくらいのばかばかしさでした(誉めてるつもりなんです)。

3 幻 〜self magic〜 加藤 正貴さん
 片思いのままの失恋というのは、内側から覗くとこんな感じだろうと共感しました。多少回りくどい表現があるものの、最終的にたどり着いた情景「広大な海と満天の星」には、超越した自己の勝利が感じられて美しいと思いました。お疲れさまでした。

4 壊れた女 芥川かげろうさん
 三百万円の出所について、何も説明されていないので気になりました。昔の彼氏にかけるはずの「流血の呪い」を強盗にかけてしまったことについて、あまり後悔もせず、そこからの新たな展開に身を任せるかのような言動をされた女性は物語の構成自体も壊してしまっていて、翻弄させられました。最後に女性は嬉しく終わっているようなので、少し安心しました。

5 檻の中 渋澤 コウさん
 ダークなイメージを全編に漂わせ、しかし主人公の中では、友情や愛情や父や母を求めて、拒絶するという子供っぽい行為を繰り返している。なぜ、檻に入れられてしまったのだろうか。それとも檻自体は存在せず、ただ主人公のイメージの中にあるのだろうか。不可思議な暗さの重みに対して、主人公の思考が軽薄に感じられてしまいました。

6 女神様のため息 よしよしさん
 幸運の女神様も出番が無かったというオチで、安心して観賞できた気がしました。冒頭にお弁当を覗くところが、茶目っ気があって面白く思いました。そんな女神様のキャラクターが今ひとつはっき表現されていない気がして物足りなさが残りました。

7 左右 完崎竜さん
 変わった設定ですが、素直なストーリー展開に好感を持ちました。電柱が男だったり女だったりしないところに不思議な魅力があると思いました。

8 頭が痛い rksさん
 放火と異物混入の犯人はこの主人公なのだろうか。頭から銀の角が生えてきて、赤鬼に変身するのかと思ったら、比較的おとなしい結末を迎えた。結論を読者に委ねるような物語にしては、針について「ちゃんと糸を通す穴もあいている」という丁寧な添え書きまでしてあったのでなんとなく安心できた。

9 初恋 柴田 綾乃さん
 「思い込みと見境のない無邪気さ」は良く表現されていると思いました。ちょっと散文的で詩的になりすぎていて、ついていけない気がしました。

10 夕焼けの廃校。ちょっとした過ち。 瀬田 春風さん
 「ようやく思い出した。私は俳優だったのだ」というのはちょっと無責任過ぎるような気がしました。「カーット!!」も月並みな感じを否めないのではないでしょうか。

11 不安な会話 高橋賢太郎さん
 不安というのはそういうものだったのですね。でも、やっぱり「だからなんなの?」と問い掛けたい気持ちを抑えることが出来ません。

12 美しい世界 雪名 雄太さん
 飛行機で遭難して、いわゆる南の島に一人ぼっちでさまよったというストーリーなのでしょうか。最後の部分に主人公の死生感のようなものが描かれていますが、全体に宙に浮いたような印象が強くて、共感出来ませんでした。

13 虫 古江未衣さん
 思わせぶりな雰囲気と舞台装置が整っているように感じましたが、それだけで終わってしまいました。妻が虫達をどう扱ったかという事は、大問題に成りえるのでしょうか。

14 君の街は僕の街 有馬次郎さん
 良くわかりませんが、大臣たちは子供で、従って夢の世界なのでしょうか。それともノスタルジーなおじさんたちですか?タイトルを読んだ瞬間からBGMとしてエルトン・ジョンの"Your Song"が鳴り続けています。邦題の「僕の歌は君の歌」が類似しているというだけの理由ですが、なんとなく雰囲気もマッチしているような気がしました。

15 フロア 加納 利夫さん
 上半身裸で鉄砲ごっこの相手をするジュンという女性もなかなかたいへんな人生を抱えているのだと思いました。音楽を文章で表現するのはたいへんですね。

16 呪いの部屋 藤丸さん
 髪の毛だと思ったのは男の体毛だったという事でしょうか。でも、体毛には特有のウェーブがかかっているので、すぐにわかる気がしました。ウェーブの無い体毛をはやした男というのもそれはそれで怖いかもしれませんが。

17 無駄な時間 かわのプーさん
 「デカイ○○○○」の丸の中に文字を埋めて楽しむタイプの物語だろうか。でも、ここは常識的にゴキブリくらいしかあてはまらないような気がする。無駄な時間は一時間弱といったところだろうか。

18 平等な国家 ラリッパさん
 全く恐ろしい時代になったものだ。現地調達はそういった意味でも行われるという事は、ウカウカしてはいられないという事だろう。うちの職場も男性社員が多いのである。困ったもんだ。

19 三郎の記憶 kazunyantaさん
 戦闘の記憶というのは、ショッキングなだけになかなか拭い去れないものなのでしょう。最期の記憶はやはり平和なものが良いと思いました。

20 風の中から さとう啓介さん
 一家が坂を転がるように不幸に成って良く様が陳腐だと思っていたら、飛び降りた先がお父さんのトラックだという陳腐の王様のような展開に成っていたので、この作品は陳腐を楽しむためのものだったとやっと思い知らされました。奥深い作品です。

21 近所の床屋さんにて やみさきさん
 こういった作品の場合、読者が解るスピードよりも少し早く謎解きが行われないと意味が無いような気がしました。もしくは、盆栽スタイルという非凡な設定をもっと楽しまないと、辻褄合わせに終始してしまう危険があると思いました。

22 Lonsome Moon 川辻晶美さん
 涙を隠すサングラスという構図はちょっと使い古された気がしました。海外のリゾート地が舞台なのでしょうか。ちょっと出来すぎた設定に戸惑ってしまいました。

23 洪水 耕田みずきさん
 狂ったようでいて、全く狂っておらずに以前に犯した罪を反芻しつづける。酔っ払って記憶を無くしたことがある私としては身につまされる話なのだろうが、なんとなく釈然としないのは、主人公の狂気が理路整然と纏まられ過ぎているからではないかと思う。

24 P九〇〇〇開発史 羽那沖権八さん
 ロボットが人間に近づきすぎる事に対する警鐘だろうか。自分の体に継ぎ目があれば、気になってめくってしまうだろうと思う。やっぱり。

25 完全なる世界 サトコフさん
 完全に壊れているので、感想はとても難しいと思いました。蚊が介在したことがせめてもの救いであり、解説の糸口のような気もしますが、蛇に足を描いても仕方が無いのでした。

26 顔の記憶 伊勢 湊さん
 義父の死に対面できない主人公なのか、友人の死を悼む主人公なのか、妻との関係なのかどれもこれも中途半端で思わせぶりなだけで、ただ問題の重さに身を委ねているように思いました。確かに死という問題を掲げれば太刀打ちできないという部分もあるのでしょうが、それに甘える形で展開されてもついていけないと思いました。

27 ふたり ウエダ カホリさん
 双生児の物語でしょうか。平仮名が多すぎて読みにくかったです。

28 アルマジロ 三月さん
  この方が生き残ろうが生き残るまいがアルマジロさんはきっと大量に虐殺されてしまうのでしょう。生き物をたやすく殺す事は良くありません。それが、アルマジロであっても、パンダであっても熊であってもコアラであっても。もう一度考え直すべきです。

29 換気扇 越冬こあら
 自作です。とにかく一度読んでみましょう。私小説ではないのです。私の休日は満たされていますし、胃に穴をあけるような性格でもないのです。まあ、そういう一面が無いわけではありませんが。読んだ方は清き一票を投票してください。

30 猿と龍、既定の宿命 由述ヨシノさん
 演歌でしょうか。無いように見えて実は貫かれているリズムが何の意味も無くて、あまり面白くありませんでした。まあ、そういうもんなんでしょうが。

31 おやすみなさいからはじまる真夜中の手紙 楠木マユミさん
 私は全面的に犬派人間なので、上手くコメントできません。コマとの美しい思い出を大切にしているということでしょうか。

32 雨やどり 一之江さん
 御作法通りの正しい雨宿りが描かれていて、清々しさを感じました。桃の香りのアイスティーとか蝉の話とか以前の作品もほのかに引用されており、楽しく読むことが出来ました。

33 次はあなた 太郎丸さん
 放浪するクイズ勝負師。何だか深いのか浅いのか解らない倒錯の世界だが、やくざに何回も刺されるのはちょっと恐ろしいと思いました。一万円を稼ぐのにそれまでの賞金全額を賭ける必然性が感じられませんでした。「後になって後悔しても買われた反感は買い戻せない」というのは名言だと思いました。

34 一年後の再会 綾重 寄之介さん
 人違いの女性にいきなり抱きついて、事件になって待ち合わせの場所にたどり着け無かったというオチでしょうか。この男ちょっと悲しすぎる気がしました。

35 大きな椅子 川島ケイさん
 大きないすの包容力については、丁寧に描かれていると思いました。死ぬ場所を決めている親子というのは、ちょっと怖い気がしました。冒頭の部分で「そう、死ぬときだって、この椅子に座ったままがいい」と言い切ってしまっているのは、ちょっと親切が過ぎる気がしました。

36 引越し asサーモンas2号さん
 引越しについて、その感慨が丁寧に描かれていて、安心して読み終えることが出来ました。



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