おかっぱの子

越冬かもめ 作

かもめちゃん
 ある町の本屋さんでこのできごとがおきた。その町の本屋さんの
ごしゅじんは、女のにんぷさんだった。いつもいっしょうけんめい
はたらいて一日にいっさつうれただけでもとてもまんぞくげなかお
をしていた。
 そんなある日、ひとりのおかっぱの女の子がにんぷのごしゅにん
にちかづいてきてこういった。
「あめちょうだい」
 女はちょっとこまった。まわりにあめなんかないし……女はこう
いった。
「ここはあめやさんじゃないのよ。あめやさんはとなりにあるでし
ょう」
 そして、女の子は一さつの本を手にして、よんでいた。そのほん
のなまえは『生と死の間』というおとながよんでも一週間はかかる
長い本だった。その本を女の子は三十分ちょっとでよみおわってか
えっていった。
 次の日、おかっぱの女の子はまたきた。そして、またこういった。
「あめちょうだい」
 女の人はちょっとふしぎなきもちになった。おんなはまたことわ
った。
 すると女の子はまた、むずかしい本を手にとって、こんども三十分
ほどで読み終わってしまったのだ。
 五日がすぎた。五日の間も、女の子はきて、おなじことばをくり
かえした。
 六日目のあさ、女をふくつうがおそった。女はすぐさまびょうい
んへはこばれて、こどもをうんだ。
 その日から、なぜかおかっぱの女の子はこなくなった。こどもを
うんで六年、かわいいおかっぱの女の子になった。その日のあさ、
おみせがほんやだと知りながら、こんなことをいった。
「あめちょうだい」
 女はどこかききおぼえのある声だと思いながらこういった。
「ここはあめやさんじゃないのよ。あめやさんならとなりにあるで
しょう」
 それをいったしゅんかん女はあのときのことを思いだした。
 6年前のあのふしぎなできごとだ。そのときふと自分のこどもの
かおをみた。あの子のかおとおなじで、おなじながさのおかっぱだ
ったことに気づいた。そして、まさかと思ってじっと見ていた。お
んなのこどもは、ある本を手にした。その本はたしかに『生と死の
間』というあの女の子とおんなじ本だった。それも三十分ほどでよ
みおわってしまったのだ。
 女はせなかがぞくっとした。いまかんがえてみるとふしぎなはな
しだが、女はそのことをとてもうれしくおもっている。なにしろ六
年ごのこどもを六年前見たというのだから……。


越冬かもめの部屋に戻る 連絡先トップに戻る 次の話を読む