Q書房 第三回3000文字小説バトル 感想文


その1 『カレー』佐藤ゆーきさん作
 完璧主義者の彼女に、人工呼吸を施した男性は、カレー臭かったという話でしょうか。確かにカレー臭い息で人工呼吸されるのは耐えられないものがあるかもしれませんが、人工呼吸されなければ、心臓が停止して死んでしまうのですから、普段から溺れない様に気をつける努力が必要でしょう。会話の部分がとてもまどろっこしい(おしゃれな?)表現になっていて、読点も少ないので、読み辛かったです。会話が自然でない為に、登場人物にリアリティーが無く、なんだか精神状態の自己分析を読まされているような気分に終始しました。

その2 『近年、地獄事情』ひろ猫さん作
 地獄が砂漠だというのは、主人公の想像で、潜在意識とは違うと思いました。話の展開や登場人物は面白いと思いましたが、結論として、何が「地獄側の苦肉の策」かわかりませんでした。強制労働も気の持ちようでボランティアというのは、少し乱暴が過ぎると思いました。

その3 『寒い冬にコートを脱いだら風邪ひいた』小林知恵さん作
 校長先生の話は、何だったのでしょうか。とても気になりました。体の弱さも複雑な家庭環境もカンニング事件もなんとなく読んでしまい、あまり引き付けられませんでした。個人的に、学校の保健室について、あまりいいイメージが無いからかもしれません。

その4 『現実が紙屑になる瞬間』厚篠孝介さん作
 毎日眺めていると波が読めるようになるというのは、すごい事だと思いました。やはり、その姿に微妙な違いがあるのでしょうか。それとも、第六感の様なものなのでしょうか。

その5 『最後のひと』おーぎやさん作
 毎朝同じ夢で目覚めるのは、さぞ、辛いことでしょう。しかし、どうして飲み込まれてしまうのでしょうか。謎解きの部分が長いので、よく解かりませんでした。冒頭のリョータの科白に謎が隠れているのでしょうか。

その6 『地下道をぬけて』吾心さん作
 競馬の世界は、勝負の世界で男の世界は厳しい。寡黙な男達が語るロマンなのかもしれませんが、私自身競馬に興味が無いせいか、長編小説か人情テレビドラマのあらすじを読まされているみたいな気がして、感情移入できませんでした。

その7 『囚人たち』逢澤透明さん作
 二股かけたぐらいで、煮え湯をかけられたんじゃかわいそうだと思いました。後半の親子の会話は、救われない状況はわかりますが、もう少しソフトな方が良いと思いました。

その8 『追憶』岡嶋一人さん作
 なんとなく、どこかで聞いたような話の気がして、全くストーリーに入る事が出来ませんでした。好き嫌いの問題だと思います。申し訳ありません。

その9 『二度目の初恋』カミュさん作
 時間や場面の描写の細部に多少問題があるようですが、タイトル通りの英子の感情が素直に書かれていて、共感が持てました。しかし、再会した織田のことを英子が以前にも増して好きになっているという部分が余り描かれていなので、終わり方に不満が残りました。初恋の相手にひと目惚れし直したということなのでしょうか。

その10『静が残した動』せせらぎさん作
 理恵さんは二重人格でもなさそうですし、旦那さんと二人の警官のうちの誰かが犯人だとすると、やはり妙に敬語の下手な若い警官でしょうか。しかし、引っ掻き傷程度の外傷で、母親が側にいるにもかかわらず、幼児殺しを実行するとは、なかなか大胆な犯人ですね。スリッパ台と散乱した靴、洗濯物の山、長電話。手がかりは多いような気がしますが。

その11『幼児回収業者』紅緋蒼紫さん作
 人類の黄昏が近い将来、この様なかたちでやって来るとは思いたくありませんが、大変リアリティーのある恐怖小説だと思いました。出版物の抜粋、記事、インタビューを並べる事により、このようにリアルに構成されると恐ろしさが増します。最後に出てくる奈美絵さんはもう悪魔そのものですね。

その12『トリックスター』うめぼしさん作
 冒頭で、ゴミでも自転車でも高層ビルでも人間でも何でも消してしまう力があると書かれていたにもかかわらず、アキヒサが消える時まで「いくらなんでも人間は消えないだろう」とマコトが思っていたという部分が矛盾しているように思えました。それから素手で人に触れなくなって、試しに触れたらサチコも消えてしまったのですね。悲しい話です。

その13『棒』akohさん作
 鳥から棒を取ると烏。子供のなぞなぞの様なカラクリからずいぶん素敵な物語が出来上がったと思いました。しかし、トンビはどうして元トンビから棒を奪ったのでしょうか。棒を奪ったトンビは元カラスだったというのなら少しは解る気がしますが、奪った棒を落とした後もトンビで居続けたところを見ると、元からトンビだった様です。トンビ仲間の悪ふざけかとも考えましたが、元のトンビに戻る為には棒を飲み込む必要があるという事は、棒は体内に収まっているもので、とても悪戯半分に仲間が取り上げるようなものではないと思われるのですが。

その14『大保険時代』羽那沖権八さん作
 リズミカルに展開する話についつい引き込まれて、ラストまで辿り着くという感じでしたが、京作が加入した保険の内容について間接的にしか理解できない為、「UFOが着陸した」という超現実的な出来事に対して、保険に加入していなかった理由が解りませんでした。とにかく、この保険外交員のマシンガントークな感じは、とても面白く、とても気持ち良く、楽しめました。

その15『乳の罠』鮭二さん作
 膝乳首というのは随分とまた大胆な発想だと思いました。その上、ずいぶん気持ち良さそうでもありました。この膝乳首の発生とミチルさんの妊娠、卵を潰すお父さんの逆襲といった出来事は、何かもっとグロテスクで、日常的な出来事の暗喩ではないかと思われますが、良く解りませんでした。「乳首とゆで卵はその気持ち良さの成り立ちが酷似している」という事でしょうか。どちらも本来の機能とは違った使い方ですが。

その16『甘い生活』一之江さん作
 甘い生活というのはこういうものなのかもしれないと、安心して納得させてくれる作品だと思いました。家族のしがらみや夫の身勝手にいくらかの不満を感じていてもやっぱり甘い生活なのでしょう。でも、「一応、処女だった。」という部分は一寸興ざめしました。必要なかったのではないかと思いました。

その17『グミのペンギン』越冬こあら作
 精一杯楽しんで書きました。素晴らしい夢を見ませう。

その18『Wanna be free AS A BIRD?』川辻晶美さん作
 厳しい環境で生き続けなければならないカラス一族の苦境が緊々と伝わってきました。環境への順応や進化も一寸時間のスパンが短いような気がしましたが、たいへん面白く読ませて頂きました。ジロウが人間を襲う場面で、「鴉がいよいよ人間を殺す最初の瞬間を想像し」という記述が少しまどろっこしくて、この場面のスピード感と緊迫感にそぐわない気がしました。また、ジロウはいったい誰に撃たれたのでしょうか。散弾銃で打たれたような描写になっていますが、博士が撃ったとは思えないし、他の人が撃てば、博士にも当たってしまうような気がしました。



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