アット霊界ドットコム


「受信トレイ」より

Title: 久しぶり
Date: Tue, 8 Aug 2000 09:42:00 +0000
From: skatoyama 
Reply-To: skatoyy@0kai.com
To: mayumikatoyama@hopmail.com

 久しぶり、元気にしてますか。

 父さんは相変わらずだ。今度、こっちでも電子メールが使えるよ
うになったので、試しに真弓に送ってみます。(父さんだってその
気になれば、電子メールくらい打てるんだ)真弓が去年ノートパソ
コンを買いこんで、電子メールをはじめた事は母さんから聞いてい
たし、親子でメールフレンドなんていうのも楽しいかもしれないと
思ってね。
 仕事はどうかな。がんばっているかい?ボーイフレンドなんかも
出来たかな。結婚の御予定は。早く孫の顔が見たいもんだな。
 まあ、こんな事ばかり書いていても嫌われてしまうので、今回は
この位にしておこう。
 真弓があんまりびっくりしない事を祈っています。

 気が向いたら返事でもくれたまえ。

加東山 末男(skatoyy@0kai.com)

P.S. メールが届いた事、母さんには内緒にしておいてくれ。気に
病むかもしれないから。

Title:昨夜はどうも
Date: Thu, 10 Aug 2000 11:13:00 +0900
From: osamuhyuuga 
Reply-To: ohyuuga@Hopmail.com
To: mayumikatoyama@hopmail.com

 昨夜は、遅れてしまってゴメン。真弓があんまりご機嫌が斜めだ
ったので、話せなかったが、大幅延長になった会議の後半、携帯の
電源も切っていたので連絡する事も出来ずにヤキモキしていたら、
部長の顔まで真弓の顔に見えてきて、議事に集中するのに骨が折れ
たよ。まあ、議事といっても相変わらずのリストラ話なんだけど。
 でも、45分の大遅刻の責任は全面的に認めるよ。埋め合わせは、
いつものイタメシ屋のコースディナーでどうかな。

 いい返事待ってるよ。

Osamu

Title:水曜日に
Date: Mon, 14 Aug 2000 10:18:00 +0900
From: osamuhyuuga 
Reply-To: ohyuuga@Hopmail.com
To: mayumikatoyama@hopmail.com

 お約束のコースディナーの予約が取れた。水曜日6:40に改札
でまってるからね。

よろしく。

 月末の韓国旅行の件、いいのがあったから予約しておいた。詳細
は会ったときね。

Osamu

Title:冗談ではない
Date: Fri, 18 Aug 2000 09:33:00 +0000
From: skatoyama 
Reply-To: skatoyy@0kai.com
To: mayumikatoyama@hopmail.com

 早速のお返事ありがとう。

 しかし、真弓は何か勘違いをしているようだね。
 父さんは父さんが昨年交通事故で死んだ事や命日が8月7日であ
ることは承知しているよ。
 これは、真弓の友達が仕掛けた悪い冗談ではないんだ。だから、
父さん相手にあんな罵詈雑言は止めておいてもらいたいな。
 こちらでの生活も随分変わって、一周忌を過ぎればメールの送受
信もほとんど自由に出来るようになったんだ。
 父さんは、真弓を驚かそうと思ったわけじゃない。ただあんな風
に急に真弓の前から消えなくてはならなかったので、せめてその前
後の事情を説明して、きちんと別れが言いたかっただけだ。
 それに父さんは今でも真弓のことが心配でならないんだ。だから、
電子メールを送ったんだ。
 どうか信じてくれ、新種のストーカーなんかじゃない。
 そういえば、真弓は月末の韓国旅行の資金捻出に窮しているそう
だね。和室の押し入れに中国の古い壺がしまってあるから、壺の中
身を調べてごらん。

加東山 末男(skatoyy@0kai.com)

Title:ご無沙汰してます。
Date: Sun, 20 Aug 2000 23:53:00 +0900
From: TanakaY 
Reply-To: youtanaka@hopmail.com
To: mayumikatoyama@hopmail.com

 真弓先輩、元気ですか。

 憧れの先輩からのメール。とてもうれしかったのですが、突然だ
った事とその内容に驚かされました。
 なんだか大変な事が起きたようですね。しかし、この難事件の解
決を大学時代「超心理学研究サークル」にその人ありとうたわれた
この田中にお任せ下さった事、光栄に感じ、事件の解決に全力をつ
くす所存です。
 二通の添付メールにも目を通しましたが、確かにたちの悪い冗談
とも考えられます。でも、二、三ひっかかる点もあります。
 一番気になるのは使用されているアドレスです。"@0kai.com"と
いうアドレスは実在しません。試しに、当方のパソコンから該当ア
ドレスにメールを送信してもサーバーが不在のため、送信できず、
全てエラーとなります。
 メールの発信元や返信先に細工を施す事は可能ですが、同じアド
レスに返信して、真弓先輩のパソコンからは返信可能で、僕のパソ
コンからはサーバーへのアクセスすら出来ないように設定する事は
ちょっと困難です。
 真弓先輩のパソコンに特別な細工を施さない限り、まず不可能だ
と思います。独り暮しの美人のアパートに忍び込んでノートパソコ
ンに細工をしたとすれば、いよいよストーカーの線が濃くなってき
ますが、故人からのものと見せかけて手紙を送受信する事が、そう
いった趣味の人の主たる目的になり得るとは思えません。(しかし
このアドレス、"@0kai.com"って、ゼロをレイと読ませて「アット
霊界ドットコム」なんて言う語呂合わせでしょうか(笑))
 さて、次にいよいよ元超心理学スペシャリストとしての分析です。
メールの送信された日付、その内容について考察してみました。故
人がその姿や存在を何らかの形態で示した事例の多くは、その死の
直後と死んでから一年目に集中する傾向を見せています。
 死の直後から報告された現象を分析すると、その再来は現世に抱
いた怨念を晴らす事を目的としたものが大部分を占めます。「うら
めしやー」と言いつつこの世に再来する幽霊現象がその代表です。
 これとは別に、故人がその死もしくは死後の世界について近親者
等に伝えたい、もしくは近親者等のその後の安否を気遣って再来す
る事例は、その死後一年目をピークに多数報告されています。これ
についてはいくつかの仮説が立てられていますが、早急な故人の現
世への再来による故人の関係者の混乱や畏怖を避けるために何らか
の力が一年以内の再来を禁じているという説が有力視されています。
 真弓先輩宛の最初のメールがお父さんの一周忌の翌日に届いた事
や次のメールでお父さんが「一周忌を過ぎればメールの送受信もほ
とんど自由に出来るようになった」と綴っておられる事は、そうい
った観点からの考えに合致すると思われます。
 身体を持たない霊がメールを送受信する可能性については、科学
的な立場からは即座に否定される事態かもしれませんが、過去には
子供の手を借りて難解な手紙を書いて見せたり、短時間のうちに壁
一面にメッセージを書いたりといった様々な形でその存在を示して
きた事例があり、そういった事例と比較検討すれば、電子や電磁波
を操作するだけで可能な電子メールの利用は十分可能な事だと思い
ます。
 結論として、僕は真弓先輩のお父さんが交通事故による突然の死
去に心を痛められ、真弓先輩やお母さんの身を案じてこういった形
で再来されたものだと信じます。
 なんだか昔とったきねづかでついつい熱中して書いてしまいまし
た。霊の存在事態は、科学的には立証されていないものの、決して
恐れるようなものではありません。
 真弓先輩も亡くなられたお父さんと会話が出来るチャンスを与え
られたのですから、有効に生かされることを考えられてはいかがで
すか。
 そういえば今日は日曜日、真弓先輩は壷の秘密を明かしに実家に
行かれたのでしょうか。どんな秘密が隠されていたのか興味があり
ます。結果を是非教えてください。

Youichi Tanaka

Title:韓国旅行に
Date: Mon, 21 Aug 2000 10:18:00 +0900
From: osamuhyuuga 
Reply-To: ohyuuga@Hopmail.com
To: mayumikatoyama@hopmail.com

 着ていく服はもう決まったかな。先月買った白のサマースーツは
カナリ決まっているから、異国の町を散歩するのにも、高級ホテル
内を闊歩するのにもいいと思うよ。
 メールを書いているだけでワクワクしてくるなあ。ああ待ち遠し
い。

じゃあまた、水曜日に会いましょう。

Osamu

Title: すまなかった
Date: Tue, 22 Aug 2000 09:21:00 +0000
From: skatoyama 
Reply-To: skatoyy@0kai.com
To: mayumikatoyama@hopmail.com

 中国の壷の件、迷惑をかけたようだね。すまなかった。あの壷に
は父さん、緊急用に幾ばくかの現金を隠しておいたのだが、この一
年の間に母さんが発見してしまったようだね。無駄足を運ばせてし
まった。埋め合わせはきっと考えるから。
 メールの様子だと真弓は家にはあまり帰っていないようだね。ア
パートと会社の往復でそんな時間も取れないし、独身女性の休日は
多忙を極めたりするんだろうが、母さんも強気な事を言ったりする
が、結局一人娘のおまえだけを頼りにしているんだ。ちょくちょく
顔を見せてやってくれ。
 田中という後輩はこちらの世界にずいぶん精通しているようだね。
「何らかの力が一年以内の再来を禁じている」とかいった多少の誤
解はあるようだが、転送してもらった論文まがいのメールは結構い
い線をついていると思う。電子や電磁波をどうのこうのしている意
識はないが、科学の論理の延長で考えるとそういう事になるのかも
知れない。
 何しろ、田中君のおかげで真弓も父さんからのメールを素直に信
じてくれているのだから、感謝しなければいけないね。
 しかし、父さんのいる世界はもっと曖昧模糊とした空間なんだ。
空間といっても、空間という定義自体が存在を前提に考えたものだ
からまるっきり当てはまるものではない。
 何しろ父さんはもう存在ではないのだから。でも、存在ではない
からといって、悲観したり同情されたりするものでもないんだ。う
まく言えないが、もっと自然なもっとうちとけたものなんだよ、今
の父さんは。
 死んだ当座は混乱し、再生を懇願したものだった。ちょうど母さ
んと真弓が父さんの棺に追いすがって泣いていたとき、父さんも同
じ位に、いやもっと大きな声で泣き叫んでいたんだ。後悔と混乱と
生への執着がどのくらいの間父さんの魂を狂わせていたか今となっ
てはわからないが、そのうちそういった一時の感情は薄らいでいき、
真弓や母さんを案じる気持ちだけが残ったんだ。
 もちろん会社や友人の事も気にかかりはしたが、それらは一時的
なものだった。どうしてももう一度真弓や母さんに詫びを言いたい。
真弓や母さんが父さんなしでも元気にやっている事を確かめたい、
励ましたい。その衝動だけは押さえきれずに、現世に執着や怨恨を
残す亡者たちとともにこの中途半端な世界に留まる決意を固めたん
だ。
 上に行けば、今以上に全てと一体感を持つ事が出来るらしいとい
うことは、こちらではみな知恵として得ているが、父さんはあえて
上には行かなかった。ここに留まる道を選んだんだ。
 こう書くときっと真弓は窮屈な収容所のような世界を思い描くか
もしれないが、そんなことはない。けっこう気楽にやっているよ。
 亡者たちの怨念話もけっこう聞きごたえがあったりするから、あ
まり退屈もしないですごせるし、何しろこうやって真弓にメールを
送る事が出来るんだからね。

加東山 末男(skatoyy@0kai.com)

Title:シッポみっけ
Date: Thu, 24 Aug 2000 10:08:00 +0900
From: osamuhyuuga 
Reply-To: ohyuuga@Hopmail.com
To: mayumikatoyama@hopmail.com

 きのう夫の携帯をいじってて、このアドレスを見つけました。メ
ッセージは端から削除しているみたいですが、このアドレスを見て
ピンときました。
 人の亭主に手を出すのはやめなさい。この泥棒ネコ!!
 修さんがあんたになんといったか知らないけれど、修さんには私
というれっきとした妻がいるの。そして、幼稚園に通うかわいい娘
もいるの。
 あんたがどんな風に修さんを騙したのかは知らないけれど、修さ
んにはちゃんと帰るうちがあるの。
 あんたみたいなどこの馬の骨かもわからないような女とは、住む
世界が違うんだから。
 修さんとあんたの間に何があったか知らないけど、修さんにとっ
ては、ほんの出来心なの。
 わかったら、もう二度とヘンなちょっかいをかけないでちょうだ
い。
 私ごたごたは嫌いだから、あんたがここで身を引けば、なかった
ことにしてあげる。
 わかるわね。

Title:経過報告
Date: Sun, 27 Aug 2000 23:44:00 +0900
From: TanakaY 
Reply-To: youtanaka@hopmail.com
To: mayumikatoyama@hopmail.com

真弓先輩元気ですか。

 中国の壷の件、残念でしたね。現世に舞い戻った霊はたいがいの
ことはお見通しで、そんな霊が伝えた場所にはきっと素晴らしいお
宝が眠っていると僕も期待したんですが……。
 さて、色々と調べてみましたが、最近インターネットを通じた霊
的現象は増加の傾向にあるようです。もともと相手の見えない通信
の世界の事ですから、確証を得るのは難しいようですが、例の「ア
ット霊界ドットコム」のような実在しないアドレスからのメールに
ついての報告事例も多々あるようです。アメリカではそんな正体不
明のアドレスばかりを集めたサイトもあるようです。
 もう少し情報が集まったら、また報告します。

Youichi Tanaka

Title:待ちぼうけ
Date: Mon, 28 Aug 2000 22:08:00 +0900
From: osamuhyuuga 
Reply-To: ohyuuga@Hopmail.com
To: mayumikatoyama@hopmail.com

 チェックインカウンターで白いサマースーツ姿の真弓がやってく
るのを二時間待った。その間、五分に一回携帯にもかけた。いった
いどうしたっていうんだい。あんなに楽しみにしていたのに。何が
あったのかだけでも知らせてくれよ。

 有給休暇も航空券もホテル代もみんな無駄になっちまったじゃな
いか。
 ちゃんと理由を説明してくれれば、事前にキャンセルする事も出
来たのに。

 とにかく、すぐに連絡をくれ。

osamu

Title: 元気出せ
Date: Tue, 19 Sep 2000 09:36:00 +0000
From: skatoyama 
Reply-To: skatoyy@0kai.com
To: mayumikatoyama@hopmail.com

 何通かメールを貰ったのに、返事が遅れてしまってごめん。どう
も時間の感覚が希薄になってしまったようだ。
 感の鋭い真弓が相手だから、遠回しは止そう。父さんはもうメー
ルを送らない気でいたんだ。もともと一回か二回メールを送るだけ
にしようと思っていたし、こんな奇妙なやり取りを長く続けてはい
けないという想いもあった。でも、今回の真弓の落ち込みようはち
ょっと酷すぎると思って、もう一通だけ書く事にした。
 真弓、元気を出しなさい。修という青年の事は早く忘れてしまい
なさい。真弓と修君とはもともと縁が無かったんだ。そのうちにま
た、きっと良い人が現れる。父さんにはわかる。父さんを信じなさ
い。
幽霊は嘘つかないって。

加東山 末男(skatoyy@0kai.com)

Title: こんどこそ最後の挨拶
Date: Tue, 3 Oct 2000 09:14:00 +0000
From: skatoyama 
Reply-To: skatoyy@0kai.com
To: mayumikatoyama@hopmail.com

 止める止めると書いておきながら、やはり書いてしまう。メール
というのは本当に恐ろしく、楽しいものだ。父さんの若い頃にこれ
があったら、どんなに楽しかった事だろう。会社で仕事をする振り
をして、母さんにラブレターを送ったりも出来たのに……。
 でも、こうして娘とメールフレンドできただけでも良かったと思
わなければいけないね。
 父さんはそろそろ上に行こうと思う。どうしてもというわけでは
ないが、そうすることが自然なんだと思えるようになってきた。
 どうやって上に行くかは、人それぞれのようだから、父さんも父
さんなりに考えてみることにした。
 ここいらの噂では、死亡して正に昇天しようとする魂を現世に押
し返してやると、その反動で上に行けることもあるらしい。ビーダ
マが弾かれていくみたいで面白い話だが、父さんの流儀には合わな
いと思う。
 父さんは心を清めて少しずつ昇っていくことにするよ……
 と、書いてみたが、上に行くことが自然なんだと思えば思うほど、
ここでこうしていたい気持ちが強くなる。もっと真弓の近くにいた
い。何か真弓の役に立ちたいという気持ちで、いっぱいになってく
る。もうしばらくここにいさせてくれ。

加東山 末男(skatoyy@0kai.com)

Title:御相談
Date: Sat, 14 Oct 2000 11:55:00 +0900
From: osamuhyuuga 
Reply-To: ohyuuga@Hopmail.com
To: mayumikatoyama@hopmail.com

 前回のメール、失礼な言いまわしが多く、気に障られたことと思
います。お詫び申し上げます。あなたがその後、夫との関係を精算
され、密会されなくなった事は、私なりに確認いたしました。
 従って、今回の事もご存知ないかと思いますが、夫は先月上旬よ
り高熱を発し、近くの病院に入院しております。原因はまったくわ
かりませが、意識もはっきりしない日が続いております。
 私も八方手を尽くしてはいますが、病状は悪化するばかりです。
そんな状態で夫のうわ言にあなたの名前をときどき耳にする事があ
ります。付き添いで泊り込んだ深夜、そんな夫のうわ言を聞き、私
は深く反省させられました。嫉妬深い女として、家庭を守る妻とし
て、あなたを夫から引き離したことが夫の心労となり、今回の病を
引き起こしたような気がしてならないのです。
 何と申し上げてよいかわかりませんが、今の修さんにはあなたが
必要なのです。一度見舞ってやってください。
 勝手な言い分ですが、お願い申し上げます。

Title:ちょっと厳しい意見
Date: Sun, 22 Oct 2000 23:44:00 +0900
From: TanakaY 
Reply-To: youtanaka@hopmail.com
To: mayumikatoyama@hopmail.com

真弓先輩元気ですか。

 先週の電話の声、なんだか元気がなかったですね。で、ちょっと
気になっているのですが、ある超心理学者の論文によると、霊と人
間との接触はどの様な形態にせよ、それが長期にわたった場合、人
間にも霊にも良い影響を及ぼさないと結論付けています。
 先輩とお父さんの電子メールを通した接触もあまり長期にわたっ
て繰り返されると、それが自然なものでない為に、エネルギーの歪
みを生じてしまいます。
 その歪みはどちらかの存在を危うくし、霊に影響が出た場合、い
わゆる成仏が出来なくなって、永遠に現世にさまよう結果となりま
す。また、人間に影響が出た場合は、著しく健康を害し、霊にとり
つかれた状態となり、命を落とすことにもなりかねません。
 現世に長期滞在した霊は、その力を増していき、悪しき方向への
影響力を強めてしまう傾向があるようです。これは、清らかであろ
うとする霊自体の無抵抗さと現世という高度で過密な世界がどうし
てもバランスを保てずに発生する現象のようです。
 お父さんとのメールのやり取りは、その辺のことを十分考慮して、
ほどほどのところで止めたほうが良いかもしれません。
 それから、電話で言っていた霊の昇天方法についてですが、悪霊
や地縛霊が位の高い僧侶の上げるお経によって安らかに昇天するこ
とは一般的に知られています。
 しかし、霊として自らの功徳を積んで少しずつ昇天するほうがよ
いと考えられています。
 先輩の言っていたように死んだ人を現世に跳ね返してその反動で
昇天すると言う方法については、あまり知られていないようです。
 いずれにしても静寂を好む世界の事ですから、衝突や反動を利用
する方法は上策とはいえないのではないでしょうか。でも、そうす
る事によって、死亡した人や死にかけている人が助かるとすれば、
研究の価値はあるかもしれません。
 真弓先輩の健康を願っています。

Youichi Tanaka

Title:夫の病状
Date: Mon, 23 Oct 2000 11:55:00 +0900
From: osamuhyuuga 
Reply-To: ohyuuga@Hopmail.com
To: mayumikatoyama@hopmail.com

 昨夜より夫の病状は悪化し、昏睡状態が続いております。主治医
ははっきりとは申しませんが、このまま目を覚まさない可能性もあ
るようです。
 別れてくれと言ったり、見舞いに来いと言ったり、随分身勝手な
事ばかり申し上げました。 せめて、夫の病状だけでも知っておい
て頂きたいと想い、このメール書きました。

Title: 本当の自由
Date: Tue, 24 Oct 2000 09:22:00 +0000
From: skatoyama 
Reply-To: skatoyy@0kai.com
To: mayumikatoyama@hopmail.com

 真弓のちいさい頃のことを思い出していた。当時は父さんも母さ
んも忙しく働いていて、いつも真弓には淋しい思いをさせていたよ
うな気がしてならない。
 人間は心の平穏と肉親の幸福を願っていながら、しかし、暮らし
は両肩にいつも重くのしかかり、訪れる一瞬の幸福を満喫すること
もままならない。
 考えてごらん、自分の想いだけを自由に味わえる日々のことを。
生活の苦しみや人生の痛みをすべて忘れて、本当の自分と心いくま
で語り合える時間のことを。
 父さんは今、そんな時間の中にいる。

加東山 末男(skatoyy@0kai.com)

Title: 誤解だ
Date: Thu, 26 Oct 2000 09:39:00 +0000
From: skatoyama 
Reply-To: skatoyy@0kai.com
To: mayumikatoyama@hopmail.com

 真弓があんなメールをよこすなんて、正直驚いた。おおかた例の
田中某に言いくるめられたのだろうが、父さんの事をあんな風に思
っていたなんて信じられない。
 父さんは修君に何もしてはいない。父さんは真弓をこちらの世界
に引き込もうなどと思ってはいない。
 父さんはただ真弓のことが心配なんだ。真弓と母さんのことが心
配で、だから声をかけて励ましてやりたくて、ただそれだけのため
にここに留まっているんだ。毎日それだけを考えているんだ。
 真弓はいつまでも父さんの子だ。大切な娘なんだ。あんな妻子持
ちの男に振り回されて、大切な青春を汚されてはいけない。
 あの男にしても真弓のことはただの遊びだと思っていた。いい年
をして、女房子供もいるくせに、人の娘をおもちゃにして、ただで
済ますわけにはいかないじゃないか。
 当然の報いだ。あのまま死んでいけばいい。そうすれば真弓もあ
の男の事は忘れて、もっと素敵な恋愛が出来るんだ。
 そうだろう。
 父さんは間違っているかい。
 父さんはただ真弓のことが心配なんだ。真弓と母さんのことが心
配で、だから声をかけて励ましてやりたくて、ただそれだけのため
に……。父さんは。
 どうやら真弓の言う通りのようだ。父さんちょっと長居しすぎた
みたいだな。
 例のビーダマ作戦を試してみる時が来たようだ。

………………

 その後、父からのメールは途絶えました。 父の作戦が功を奏し
たのか修さんは奇跡の生還を果たしたようです。でも、その事はも
う私にとってはどうでもいいことでした。
 私は全てのメールをコンパクトディスクにコピーして、ハードデ
ィスクから削除しました。
 その日曜日、風が冷たくなり、コート姿が増え始めた街のコーヒ
ーショップで、待ち合わせた田中君に研究材料となるコンパクトデ
ィスクを手渡した後、相変わらず理屈っぽい田中君の最終報告を聞
いていると、私の携帯にメールが入ってきました。それは、不思議
なメールでした。
 文字コード選定の誤りか回線の不良か、判読不明な文字の羅列を
私は田中君に見せました。「真弓先輩、これはお父さんの霊魂から
だよ」田中君は事も無げに言いました。
 私は、この数ヶ月間の不思議な体験を想い出し、体を硬くしまし
た。
「だって文字まで化けてるもん」そこまで言った後、田中君は微笑
みました。
 私も小さく微笑みました。


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