四角い父さん

四角い父さん挿し絵
 四角い家には四角い父さんがいた。四角い父さんは昔、丸い母さ
んと結婚した。四角い父さんと丸い母さんの間には、隔世遺伝も手
伝って、三角長男、丸長女、四角い次女の三人の子供がいた。

 四角い父さんは、丸い母さんが自分と違うと分かっていながら結
婚したくせに、もっと言えば、自分と違う部分にひかれて結婚した
くせに、四角い床を丸く掃くような丸い母さんのやり方が、場合に
よっては気に触り、腹を立てては文句を言った。文句を言われた丸
い母さんは、「そう言われても丸い私は変わりません」と、口に出
したら喧嘩になるので、心の中でつぶやいて、丸く納めていたのだ
った。そうすることが常だった。

 四角い父さんは、丸い母さんも含めて、自分の周りの人間関係に
気を使っていた。そして、持ち前の厳格さで、自分をも客観的に判
断したつもりになって、人間関係がギクシャクしないよう、できれ
ば角を取りたいと努力を重ねた。しかし、四つの角を削るのはたい
そう骨が折れるのだった。そして、「俺は、毎日こんなに努力を重
ねているのに、おまえは、少しも努力をしない。お前は何にも分か
っちゃいない」と、丸い母さんにともすれば辛くあたるのだった。

 丸い母さんは「そういわれても、丸い私は削る角とて無い身だし」
と、口に出したら喧嘩になるので、心の中でつぶやいて我慢した。
丸は内圧にも外圧にもたいへん強い形状なので、じっと我慢が続く
のだった。

 四角い父さんもしかし、怒ってばかりいるわけではなく、昼間は
会社で働いた。四角い会社の四角い部屋で、四角い机上の四角い画
面を眺め、四角いキーを打ったりしていた。

 四角い父さんは、インテリゲンチャであったので、四角い会社が
集まって、四角い街を作り出し、四角いだけの考えが丸くなれずに
押し合いへし合い、収まりきれずにはみ出して、丸い地球を汚した
りしている由々しき現実も十分理解しているつもりでいた。

 大切なのは調和だと、四角い父さんは考えた。四角に丸の旗の下、
三角、四角、丸、五角、色んな人が集まって、みんな平和に生きる
には、理解と調和が大切と、四角い父さんは考えた。そして大いに
満足した。四角い窓からはもう、丸い月が覗いてた。

 蛇足だが、三人の子供は、上から三角、丸、四角で、チビタのお
でん三兄弟なのだった。

 丸い母さんは、うたた寝を始めた四角い父さんに四角い毛布を掛
けてから、丸い電燈の灯を消した。

 これでいいのだ。


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